INTERVIEW

“舞妓という職業”

市結(いちゆう)

─舞妓さんとはどんな人のことですか?

一言ではいえまへんけど…お座敷でお客様をもてなす芸妓(げいこ)さんを目指して修行する若い子を舞妓さんいいます。うちは中学卒業してすぐ、花街の置屋さんに住み込んで修行する「仕込みさん」になって、一年修行して舞妓さんになりました。
京都市内には、うちの所属してる先斗町の他に、上七軒、祇園東、祇園甲部、宮川町の五花街(ごかがい)があって、それぞれ舞の流派が違います。
普段は、夜のお座敷に寄せていただいて、踊りとかお唄をさせていただいたり、お話しておもてなしします。たくさんのお客様と接する機会があって、お話させてもらえることが毎日楽しおす。
お座敷以外にも、日本文化を紹介するイベントで踊ることもあります。一度、この格好のまま台湾でのイベントに寄せていただきました。今は、6月下旬に行われる「五花街合同公演」に出させてもらえることになったので、その日に向けて練習してます。

─普段のスケジュールについて教えてください。

まず、身支度整えて、だいたい10時頃からお稽古します。お昼は、お茶屋さんにご挨拶回りに行きます。昨日寄せていただいたお茶屋さん、今日寄せていただくお茶屋さんにご挨拶してから、おこしらえします。おこしらえは、お座敷に上がるための支度のことどす。着物は屋形のお母さん(女将さん)のをお借りして着つけてもろて、お化粧は自分でします。それから、夜の宴会に寄せていただきます。

─舞妓さんになろうと思った理由はなんですか?

中学2年生のときに、家族で先斗町の「鴨川をどり」を観せていただいたんどすけど、踊る舞妓さんがほんまにきれいで感動したのがきっかけどす。舞妓さんになりたいという気持ちを、両親に伝えたら大賛成。「鴨川をどり」がうちの夢のきっかけやったことも含めて、縁あって先斗町の花街にお世話になりました。

─「仕込みさん」と舞妓さん、どんな修行をしますか?

仕込みさんは、屋形のお掃除とか、姉さんがお着物着はるお手伝いをします。その後しばらくしてから、踊りとお茶のお稽古を始めます。お見世出し(デビュー)のひと月前くらいには「見習いさん」になって、お座敷に直接出さしていただくんどす。一年過ぎるんはあっという間どした。
舞妓さんになってからは、お三味線、長唄、お囃子もお稽古させていただいてます。特に好きなのはお囃子やお三味線。小さい頃にピアノやバイオリンを習てたからかもしれません。踊りのお稽古は大変どすけど、お稽古は全部楽しくて、好きどす。

─お見世出し(デビュー)はどんな風にするんですか?

舞妓さんになる前には、必ず一人の芸妓さんと姉妹の御盃(おさかずき)を神様の前で交わすんどす。屋形のお母さんが、お姉さんになる方に頼んでくれはって、姉妹の関係は花街にいる限り、ずぅっと続きます。名前もお姉さんの一字をもらうんどす。うちの姉さんは市楽さん姉さんなんで“市”の筋を継がせていただいて、晴明(神社)さんにも見ていただいてから、うちに合う名前をお母さんとお姉さん方が相談して決めてくれはりました。姉さんはいつも面倒見てくださる存在で、このかんざしも、姉さんが用意してくれはるもんどす。
お見世出しのはじめの3日間は、黒紋付を着てお姉さんが一緒に来てくれはるのどすけど、その後は色紋付を着て一人で回ります。うち、雨女やってよう言われるんどすけど、お見世出しのときも一人になった日から雨で大変どした(苦笑)。

─舞妓さんと芸妓さんの違いについて教えてください。

芸事でお客様を楽しませることは一緒なんどすけど、見た目はあります。舞妓さんは幼くて、芸妓さんは大人の雰囲気どす。昔は、今より若い子が舞妓さんとして修業してたこともあって、帯の位置も舞妓さんの方がずっと上やし、肩とお袖は縫い上げしてあって子どもっぽい。踊りの振り付けも、舞妓さんの方が手の位置が高くて華やかな感じどす。
あと、舞妓さんらしいのは帯どす。「だらりの帯」といわれる帯は5メートル近くあって、毎日屋形のお母さんに着つけてもろてます。
髪も違て、舞妓さんは自分の髪で、だいたい5日、長いとこやと10日ごとに髪結いさんで結い直します。結い直しまでは崩さへんように高枕で寝ます。芸妓さんになると、鬘(かつら)になります。かんざしも舞妓さんの方が華やかやったり…やっぱり幼くかわいらしく見せるようになってます。

─舞妓さんになって大変なことはありましたか?

いろんな姉さん方と踊らしていただくこともあるので、その調和を乱すことなく、きれいに見せるのは今でも難しいどす。一人で踊るときも、目線やったり、指先まで気ぃつかいます。
出たてさん(デビュー当初)のときは、特に帯の位置が高くて胸が締め付けられてるので、息が上手くできまへんで大変どした。着物は重たくて体力も要るし、足の筋肉も大事どす。昔は振りを覚えるんで精いっぱいで、最中にいろいろ考えすぎて振りが飛んでしまうこともありました。今は、無心で踊っても身体が勝手に動いてくれるくらいになるまでお稽古するようにしてます。

─この先の夢を聴かせてください。

うちが舞妓さんになるきっかけをくれた「鴨川をどり」は、もちろん舞妓さんの踊りも素敵やったんどすけど、地方さん(じかた:お三味線などで舞の伴奏をする人)が、長い時間舞台を盛り上げてたことも印象的どした。うちも、これからもお稽古を一生懸命頑張らしていただいて、地方もできる立派な芸妓さんになりとおす。

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